InstagramにおけるUX氷山の反対側

Tsubasa Shiraishi
9 min readAug 15, 2019

この記事はAli R. TariqさんのOn Instagram’s Inverted UX Icebergからの翻訳転載です。著者の許可を得て投稿しています。

今、手元のスマホでInstagramのアプリを開いてみると、以下のような画面が表示されるでしょう。

iphoneXでとったスクリーンショット

見慣れているいつもの画面では?と思うかもしれませんが、特にここに注目してみてください。

わかりますでしょうか。
このアイコンがInstagramに採用された(以前はカメラのアイコンでした)のは2016年後半でした。比較的静かに加えられた変更ですが、ヘビーユーザーにとってはすぐにわかる変更だったかもしれません。

この変更、気がつきはするけれどただアイコンが変わっただけで特に何でもない変更のように思えますよね?ユーザー体験にも特に影響はないし、大したことではないと。

しかし、一見なんでもないこの小さな変更から、プロダクト/UXデザインにおけるとても良い学びが得られるのです。

その重要な変更について説明するにあたり、まずは過去を振り返って見ましょう。過去のInstagramのUI変遷を以下のように画像にしてみました。

Courtesy of http://greatappstimeline.xyz/instagram/

それでは、それぞれの画面のタブバーの真ん中にあるアイコンの変化に注目してみましょう。

どうでしょか?
まずわかるのは、2010年に始まってから2016年までずっと、Instagramはカメラのアイコンがタブバーの真ん中にありました。

もちろんアイコンのテイストのマイナーチェンジはあるものの、カメラのアイコンであることに変わりはありませんでした。事実Instagramのロゴ(ロゴにも様々な変遷があります)は紛れもないカメラのマークであり、多くの人はこのカメラアイコンをインスタグラムのロゴと結びつけるでしょう。

Instagramは、「写真を撮る」という行為、そしてそれらをコミュニティ内で「シェアする」という行為にもっとも価値を置いており、Instagramにおけるコアの体験としてきました。そのためカメラアイコンは常にタブバーの真ん中にあり、常にユーザーの注意を引くよう美しく、質の高いものでありました。

2010年と2011年のカメラアイコンは、他のタブバーのアイコンとラインが異なって(丸く出っ張って)いました。

2012年から2015年にかけては、ラインは他のアイコンと同じになったものの、青くハイライトされ他とは差別化がされています。

そして2016年に初めて、他のアイコンと同じようなミニマルなデザインへと変更されました。まだカメラのアイコンではありますが、注意を引くような特別さはなくなりました。

SIDE NOTE:このことは、Instagramが「人々はすでに写真をコミュニティーでシェアすることに慣れ親しんでいるのでガイダンスのようなものはいらないだろう」と期待するようになったことに関係があるかもしれません。ほとんどの人のメンタルモデルにおいて、このようなガイダンスを出すことはお節介になりかねないので、こう考えることは公平なことでしょう。Instagramは約6億人のアクティブユーザーがいると自慢するかもしれませんが、これは世界の約64億人がInstagramを使用していない、という事を意味します。多くの人々がアプリをどのように解釈して使用するかについて仮説を立てることは、長期的な成長において危険なのです。

そして2016年後半にInstagramは象徴的なカメラアイコンをやめる事を決め…

プラスマークへと置き換えました。

カメラのアイコンは写真とシェアを象徴していたのに対し、新しいアイコンはとても質素です。特徴や感情(カメラアイコンはどことなくノスタルジックさを醸し出していました)もなくなってしまい、「追加」という冷たいタスクへと化してしまいました。このプラスマークはInstagramのコンテキストで一体どういう意味を持つのでしょうか?

一見シンプルで簡単な変更のように見えますが、Instagramの歴史で一番大きな事象といっても良いでしょう。

このことについてもう少しお話するにあたり、有名なUX氷山の考えについて触れたいと思います。

Jesse James GarretのThe Elements of User Experienceよりアイディアを得たUX氷山

短くお話すると、人々が見たり、やり取りをするデジタルプロダクトの表面(ウェブサイトやアプリなどなんでも)は単に複雑な階層を持つ巨大な氷山の先端部分に過ぎない、という事をUX氷山は論証しています。氷山の下部分はユーザーには見えていません。

この氷山モデルにつながる著書「The Elements of User Experience」よりUX を構成する 5 つの段階というコンセプトを普及させたJesse James Garrett氏は、この複雑な階層について次のように述べています。

その綺麗に整った(デジタルプロダクトの)体験は実は、(デジタルプロダクトが)どう見えるか、どう振る舞うか、何ができるか、などといった一連の決断から生じたものなのです —それは 小さい決断もあれば大きい決断もあります— これらの決断は相互に基づいて行われ、ユーザー体験の全ての面において情報を与え、そして影響を与えています。もしその体験のレイヤーを剥がしてみたらなば、私たちはどうやってその決断がなされたのかを知ることができるでしょう。

もしプロダクトデザイナーが戦略の決定をしたならば、それは要件決定に影響を及ぼし、構造へと伝わり、そして骨格へ伝わり、ビジュアルデザイン(表層)へと伝わるでしょう。

しかし、ユーザーにとっては、氷山の下に行けば行くほど、プロダクトデザイナーによる決断は不明瞭になっていきます。ユーザーはプロダクトデザイナーが正確な決断をしたと信じることしかできないのです。

ユーザーは通常プロダクトを表面レベルでしか見ず、表面下で何が起こっているのかはわかりません。一方プロダクトデザイナーはUX氷山/階層が全体をサポートしている事を確かにする責任があります。なのでプロダクトデザイナーはUX 氷山の反対側に特に取り組む必要があります。

さて、Instagramの話に戻りましょう。カメラアイコンから平凡な見た目の追加ボタンへの変更はただのカジュアルなアップデートではありません。

Instagram のリーダーやプロダクトデザイナーが、自分たちが何をしているのかわかっていると仮定すると(これは正しい仮定だと思いますが)、このUIの変更は会社全体の戦略に密接に関わる一連の決断なのではないかと推測することができます。

言い換えるのであれば、これはInstagramでこれから起きることのヒントなのです。

2016年だけで見ても、Instagramは以下をリリースしています。

モバイル写真に主にフォーカスをおいていたInstagramですが、どうやら積極的に新しい領域へと踏み出し、革新的な成長をとげようとしているように見えます。(皮肉にも他のプロダクトの模倣によってですが)

私にとってタブバーのアイコンの変更は些細なものではなく、耳障りなものでした。もしInstagramが喋るのであればこん感じでしょう。

ユーザーの皆さん!Instagramはもう写真をシェアするアプリではございません。もちろんそれもまだできますが、それが全てではありません!それ以上のことがもっともっとできるのです。例えば、動画のシェア、ビデオのループ、生配信、24時間で消えるストーリーズ、他にもまだまだあります!やがて皆さんは昔ながらのカメラがどんなものかすら忘れてしまうでしょう!😄

これは極端かもしれませんが、Instagramは常に瞬間や思い出を他の人とシェアすることを目指してきました。そしてこの戦略が大きく変わることはないでしょう。

しかし、瞬間や思い出の伝達メカニズムが将来大きく変わることは予測できるでしょう。なぜなら、それはもう写真に依存しないということをInstagramが示唆しているからです。

この小さなUIの変更が、Instagramが始まって以来最大のUXの変更であるというメッセージなのではないでしょうか。

アップデート(2/2/17):この記事と同じテーマに触れている以下の記事を見つけました。補完的でとても良い記事です。

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